台湾に関心がある沖縄の人が読むとより一層興味が湧きそうな本を一冊紹介したいと思います。

キーワードは牡丹社事件、宮古島、パイワン族といったところでしょうか。

今をさかのぼること149年前(1871年、明治4年)遭難した宮古船の漁民らが台湾南部に漂着し、原住民に殺害される事件がありました。それから134年後の2005年、沖縄で加害者と被害者の子孫が出席した和解イベントが開かれました。双方へのインタビューと現地取材によって当事者の末裔たちの思いをつぶさに伝えるノンフィクション作品が昨年出版されました。

牡丹社事件 マブイの行方ー日本と台湾、それぞれの和解

牡丹社事件 マブイの行方ー日本と台湾、それぞれの和解

  • 作者:平野久美子(ひらのくみこ)
  • 出版社/メーカー: 集広舎
  • 発売日: 2019/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

筆者は沖縄、宮古島、大分、長崎それに台湾の台北と屏東県で加害者、被害者双方の末裔に取材を重ね、事件の現場も訪れます。100年以上経った今も和解は一筋縄ではいきません。

遺族の末裔は事件現場を訪れ、あたかも沖縄の漁民たちが武器を携えて村を襲撃したかのような記念公園内の説明板の文言に不快感を覚えます。

一方で加害者であるパイワン族の子孫たちの間でも事件は語り継がれてきました。当初の手厚いもてなしが、どうして凄惨な事件という結末になったのでしょうか。

日台のマイノリティーであるウチナーンチュとパイワン族の間に起こった事件が奇しくも日本の台湾出兵ひいては台湾領有という大きな歴史の流れへのきっかけを与えることになります。しかし筆者は当事者たちの感情は別のところにあると考えます。

 

「彼(ブログ主注:被害者の末裔)の主張は、ヤマトと琉球を区別してほしいということにほかならない。(中略)やり場のない怒りや不信感は(中略)台湾や日本の関係者にも向けられていることが分かったけれど、それだけではなく、何かもっと、とらえようのない大きなものに向かっているのではないかと感じられた。しかし、それが何かは、はっきりとわからなかった。」

念のため申し添えておくと、「原住民」という呼称は台湾では蔑称ではなく、日本語の「先住民」とほぼ同義です。

台湾原住民は言語をもとにした民族の分類では、オーストロネシア語族というグループに属し、漢族とはちがった文化を継承してきました。本書に登場するパイワン族は政府が認定する16民族の一つです。原住民に限らず、多様な背景を持つ人々が認め合って共存する台湾の姿からは日本が学ぶべきところも多いのではないでしょうか。